
週末もうひとつ有意義な講演を聞きました。柿澤弘治元外務大臣.が3日、国際ロータリークラブ第2640地区の会合で行った「東アジア外交と日本経済の行方」と題した講演です。柿澤さんは、小泉首相の靖国神社参拝をめぐる中国、韓国とのぎくしゃくした関係、米国一辺倒の外交に強い懸念を表明。「日本人は島国で独特の文化を持つ単一民族だと考え、そのために孤立的な国家観や排他的な鎖国主義に陥りがちだ。しかし、グローバリゼーションの波の中、国際社会の中で、特に東アジアの隣人と調和のとれた協調関係を打ちたてていくためには、そうした先入観と偏見を捨て去ることが必要だ」と訴えました。 柿澤さんは「最近のDNA分析の結果が示すように、日本人はシベリア、朝鮮半島、、中国本土、ポリネシア諸島など、多方面から渡来した東アジア系民族の混血によって成立したことがあきらかになっている」とし、混血民族としての起源が、千数百年以上さかのぼることからともすれば忘れがちであるが、日本民族の特色の多様な文化に対する柔軟な受容性や「八百万(やおよろず)の神」の日本は、これで説明がつくと。
「明治維新で、日本は福沢諭吉の言葉で知られる脱亞入欧路線で近代化、アジア諸国にたいしては植民地化や侵略戦争へと突入することになるが、注目されなければならないのは日本の知識人の中でアジアへの共感を持ち続けた人たちがいたことだ」と、いまから百年以上前の1903(明治36)年ロンドンで英文で「東洋の思想(The Ideals of the East)」を刊行した岡倉天心の存在に注目します。
「アジアは一つ」「日本はアジア文明の博物館」などと訴えた岡倉天心の精神を引き合いに出しながら、柿澤さんは「日本人は東アジア人」という意識改革の必要性を訴えていました。
ベルギー大使館勤務などで「我々はヨーロッパ人」という意識が巣立ちつつあることを実感したという柿澤さん。いろいろな困難を克服してEU(欧州連合)としてまとまり、米国というスーパーパワーに自尊心をもって対抗しているのに対して、小泉首相が、中国、韓国のトップと腹を割って話が出来ない現状や、これに反比例するように米軍の再編計画などアメリカの一つの州になりかねないほどブッシュ一米大統領辺倒のアンバランスな外交に強い危機感を抱いているのです。
私も、小泉首相の偏った外交に強い懸念を抱いています。改革に賭ける政治姿勢、その意欲と執念は、これまでの政治家にはない卓越したリーダーシップを感じますが、その外交姿勢は最悪でその評価さえ帳消しになりかねないほどの危うさを感じます。
柿澤さんは、アセアン10カ国と日中韓の13カ国の「東アジア共同体」の重要性、さらに小泉さんがこれから開かれる「東アジアサミット」などで、テレビに向かって語るのではなく、中国、韓国の首脳といかに腹を割って話ができるかが大事であることを強調していました。そのとおりです。
ワンフレーズのテレビ会見は、国内では成功しているようですが、この問題では逆効果です。信念で靖国参拝を続けるのなら、首脳へのひざ詰めの対話はもちろん、中国、韓国の記者団への会見を開いてその思いをじっくり語るぐらいの丁寧さ、戦略が必要ではないでしょうか。